―日常が崩れるとき…第3話―
常磐悠
―――そんなこんなで、帰りのHRの時間。
「それで名雪、相沢君は大丈夫なの?」
「う、うん……」
「それにしても、いきなり名雪から『ゆうち……じゃ無かった、祐一が風邪引いて家の中を逆立ちし始めたから、救急車呼んで病院に運ばれていったよー(棒読み)』って聞いた時はびっくりしたわよ」
「……香里ー、私のしゃべり方そんなにのんびりしてな……」
「お前らー!喋ってないでいい加減に席につけー!!」
「ほら名雪、HR始まるからまた後でね」
「うう〜」
「えー、今日はうちのクラスに転校生……みたいなのが来たので紹介する」
「先生―、その転校生みたいなのって何ですかー?」
「それに朝じゃなくて、どうして帰りにですか??」
口々に生徒達が疑問を口にしていく。
「ほら、静かにしろー!まあ、とにかく入ってきて」
先生がそう言うとドアが開いて、一人の女生徒が入ってくる。
うっ……。
いくら見慣れたクラスメートとはいえ、この状態で話すのは恥ずかしい。
「あ、あの……」
そんな俺の後ろでは担任が黒板に『相沢祐美』と書いている。そして、黒板を見たクラスメート達がざわめく。
まあ、そりゃ同じ名字なら当然か。
―――これ以上ほっとくと、後々大変だし……。
心の中で気合を入れると、改めてクラスメート達の顔を見た。
「どうも始めまして〜♪いつも祐君がお世話になってます。えっと、祐君……相沢祐一の姉の相沢祐美です」
「祐君がちょっと学校来れなくなっちゃったので、変わりに私がみんなと一緒に授業を受けに来ました♪」
「少しの間だと思うけど、皆さん宜しくお願いね〜♪」
……凄く恥ずかしい、本当にこんな事をしないといけなかったのだろうか?
今更後悔しても、それこそ『後悔先に立たず』なんだが……。
「じゃあお前ら、ここでHRを終わらせるのと、質問コーナーにするのとどちらが良い?」
俺の自己紹介が終わると、担任が言わなきゃ良い余計な一言を言った。案の定……。
「帰らなくって良いから、祐美さんに色々と聞きたいです!!」
「あっ、お前いきなり相沢さんに『祐美さん』なんてなれなれしいぞっ!」
「良いじゃないか、悔しかったらお前もそう呼べばいいじゃないか」
とか……。
「祐美さん、あ、あの……『お義姉様』って呼んでも良いでしょうか?」
「それじゃあ、私も『お姉様』って呼ばせてもらっても良いですか」
「み、雅……あんたが言うとヤバイ気がするんだけど……」
とか、とにかくクラス中色々な意味で意見が統一されてる……はぁ、どうやら当分の間は帰れそうも無いな。
「あの、祐美さんと祐一君はどのくらい年が離れているんですか?」
質問タイムが始まって、いきなり問題な質問が出てきた。
「わ、私と、祐君?」
……そんなの、か、考えてないぞ……。
「えっと……祐君と年は一緒だよ……私の方が、ちょっと早く生まれたのよ」
「そうなんですか……?」
「う、うん」
「じゃあ、双子なんですか?」
「えっ、違うけど……?」
「……でも、それじゃあ、お二人は血が繋がってないって事に……」
……。
……やっ、やばっ、そう言えば……。
「馬鹿!」
「あっ……ごめんなさい……」
「……えっ……あ、ああ、良いのよ気にしないで」
どうやら複雑な家庭の事情だと思ったらしい。多分、俺が慌てて理由を考えてる顔をみてそうおもったんだろう……。
「……えっと、それで相沢さんは自分の学校は大丈夫なんですか?」
この空気を察して、別の生徒が質問してくる。今度は気をつけて答えないとな……。
「……うーん、大丈夫じゃないかな?で、でも、祐君の学校……一度、行ってみたかったしね」
「……そうですか」
そう答えると、何故かその男子生徒―――確か名前は斉藤って言ったと思う―――は、悲しそうに座り込んだ。
クラス中も、何故だか同じような雰囲気だった……。
「ねえ、祐ちゃん……」
帰り道、名雪と二人で帰っていると不意に声をかけられた。
ちなみに、質問タイムはあの後すぐに終わった……助かったんだが、何だか拍子抜けだった。
「ん、どうした名雪?」
「あのね、さっきのHRの事なんだけど……」
「ああ、なんかまずかった所あったか?」
「うん……」
「やっぱ、血が繋がってないっていう設定はまずったか?でも、次の質問は名雪に言われた通り答えたぞ」
「……それがいけないんだよ」
「えっ、どうしてだ?」
「うん、血が繋がってれば問題ないと思うけど、あれじゃ多分みんな……」
「?」
「分かんないなら良いよ……」
「???」
結局その後名雪はいくら聞いても教えてくれなかった。
仕方が無いので帰り道は空の雲の数を数えながら帰った。
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