―日常が崩れるとき…第2話―
常磐悠
―――結局、俺が意識を取り戻したのは太陽が高く昇ってもう午後になる頃だった。
『名雪…
俺には、奇跡は起こせないけど…
でも、名雪の側にいることだけはできる
約束する
名雪が、悲しい時には、俺がなぐさめてやる
楽しいときには……』
ガバッ
俺は慌てて起き上がり、悪夢の原因を叩いた。
「はぁはぁ……」
「やっと起きたね……祐美ちゃん♪」
―――ゆ、祐美ちゃん?一体誰の事だ……?
「うーん……祐美ちゃんじゃなくて、祐ちゃんって呼んだ方が良かったのかな?」
「えっと、名雪……祐美ちゃんとか祐ちゃんとかって一体誰のことだ?」
「誰?って聞かれても、祐美ちゃんは祐美ちゃんだし、祐美ちゃんだから祐ちゃんだよ」
そんなの当たり前だよ〜、って感じで言ってくる名雪。でも、俺には全く理解が出来ない。
「そうじゃなくて、何故俺の名前が『祐美』なんだ?」
「それは、だって祐一は女の子になっちゃったんだから祐一って呼ぶのは変かな〜?と思って祐一が寝ている間中ずっと考えてたんだよ〜」
すごいでしょ♪とでも言いたげな、満足そうな顔で名雪はそう言ってきた。
「……」
あきれて何も言えない、っていうのはこういう事をいうんだろう。
「どうしたの祐ちゃん?」
そんな俺の気持ちを全く知らずに、名雪は無邪気な笑顔で俺の顔を覗いてくる。
「いや……」
「ほらほら、それよりもそろそろ学校へ行こうよ〜」
俺が意識を失っていたときに着替えたのだろう……とっくに制服を着ている名雪が俺の腕を引っ張りながら言ってくる。
「……あ、ああ、分かった。それじゃあ、部屋で着替えてくるよ」
「うん、なるべく早くね〜」
そう言えば、何か名雪に言おうと思っていたことがあったはずなんだけど……なんだったかな?
そんなことを考えながら部屋に行くと―――
「……」
さすが秋子さん……やはり貴女なんですね。……俺の視線の先にはこの部屋に無いはずのもの―――女子用の制服―――があった。その上に律儀に女性用の下着まで……。
俺に……こ、これを着ろと?
散々悩んだ結果、仕方が無く着る事にした。
……でも、着方が分からん……こういう時には―――
「これで、大丈夫だよ祐ちゃん」
「名雪ありがとな」
制服はともかく、下着の着け方が分からなかった俺は―――取り方なら自信があるが―――結局、名雪に頼んで着けてもらうことにした。
まあ、変な風に触られたり、俺の体をじっと見て溜め息したり……一体なにがしたかったんだろうか?
後、何故か体格の変わってる俺に合わせて秋子さんが制服を用意してた事は、どうせ考えても分からないので気にしない事にした。
「うん、それじゃあ学校に行こう〜」
「ああ、でもその前に……」
太陽の光に当たって、綺麗に輝いているさらさらと腰ぐらいまで真っ直ぐに伸びた髪。それに、多少潤んでいる瞳。客観的に見てもかわいいの部類に入るだろう顔。整っている体。どこを取っても申し分が無い……それが『相沢祐美』だった。
―――多分、鏡に映っていたのが自分でなければ俺は惚れてたような気がする。そのぐらいかわいいと思う。
畜生……何で、何で何で、これが俺なんだよ……!!
「……遅いから来てみたんだけど……祐ちゃん、鏡の前で何してるの?」
「いや……何でも無いんだ……気にしないでくれ」
「ゆ、祐ちゃん〜、チェーンソー持ってどこに行くつもりなのー?」
何か感じ取ったのか、必死に俺の腕を掴んで押さえつける名雪。
「止めないでくれ名雪、俺は神を許すわけにはいかないんだ!!」
「お、落ち着いて祐ちゃん〜!」
―――92分後
「……さて、学校に行くか」
「う、うん……」
思いっきり疲れた……。
「それにしても……」
この格好で学校に行っても大丈夫なのだろうか?
改めて考えてみれば、今の状態の俺は存在するはずも無い存在のはずである。
それなのに……。
「ねえ、祐ちゃん学校に着いたよ?」
……学校?
「えっと……何処まで行くの?」
ダッダッダ―――
考え事をしていたせいで通り過ぎてしまった校門に慌てて戻る。
「はぁはぁ……」
「だ、大丈夫祐ちゃん?」
「あ、ああ……ちょっと考え事をしてたせいで気が付かなかった」
「……祐ちゃん何か悩み事でもあるの?」
「名雪……そりゃ、悩みたくもなるだろ……」
「何で?」
「何で?って……はぁ、だからな―――」
「―――と、言うわけだ」
「……うーん、そうだそれなら〜♪」
俺の説明を聞き終わった名雪は、『こうすれば良いんだよ〜』と言ってきた。
……俺は、凄く嫌……と言うより、こんな事してまで学校に行きたくなかったんだが……まあ、これからの生活の為にやるしかないようだ。
ちなみに、その事で職員室に行ってみたら、すでに秋子さんから書類が用意されてた。……つまりは、俺の親達は既にこの事を知ってるらしい……。今更、どうだって良いんだが……。
頭が痛くなりそうだったが、何とか堪えつつも俺は教室へと歩いていった。
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