―日常が崩れるとき…第1話―
常磐悠
始まりはいつも唐突だ……。
朝起きると……俺は、俺で無くなっていた。
……いや、『俺でなくなっていた』というのは正しくないのかも知れない……。
……ただ、俺が……俺の姿が『女』になっていただけなのだから……。
「……えっと、誰なのかな?」
……暫くの間、本当に長い時間が経っていたらしい。俺はあの大地震が来ようと全く起きない名雪が起きるまでずっと鏡の前で固まっていたのだから。
「では問題です!!さて、私は誰でしょうか?!正解者にはイチゴサンデー1週間分プレゼント!!」
「えっ?本当に?!……えっと〜、う〜ん……」
名雪は知らない人間が家に不法侵入してる事なんてどうでも良いらしく、イチゴサンデーを手に入れるために必死に考えている。……色々と心配だぞ。
普段寝てばかりで使っていない脳みそを頑張って動かしているらしく色々な奇声を発しながら考えている。
そんな名雪もなかなか可愛かったりする……と、思ったのは内緒だ。
―――でも、結局分からなかったらしく……
「う〜、分からないよ〜祐一、答え教えて〜」
……って、分かってるじゃないかよ名雪。
「名雪……もしかして、普段俺が名雪のことをからかっているからって、そのお返しなのか?」
だとしたら、お兄さんはすっごく悲しい……。そんなにも俺はひどい事をしていたのだろうか?
「えっと……良く分からないんだけど、急に口から祐一って出てきたんだよ」
何だかものすごく嬉しいことを言ってくれる名雪。俺と名雪との絆は性別をも超えるんだな。
―――自分でも危ないことを言ってるような気がするんだがこの際気にしないようにしよう。
「それで祐一……って呼ぶのも何だか変な感じだよね、何か女の子っぽい呼び方考えなきゃいけないよね♪」
「……そんな事より、俺が何故女になってるかって事は気にならないのか?」
「そう言えば……なんでなんだろうね?」
何だかどうでも良いって感じの名雪……まあ、最初から名雪に期待はしてなかったしな……。
多分あの人なんだろう……こんな事が出来るのは俺が知ってるのは二……いや、もう一人いる……か、でも今回の事は……。
―――それは昨日にさかのぼる。
俺がいつものように夕飯前の時間を持て余しているその時に……ドアを叩くその音が始まりだったのだろう。
「あの祐一さん……今、少しよろしいでしょうか?」
「はい、よいですけど……どうしたんですか?」
いつもと雰囲気の違う秋子さんに何だか嫌な予感がしたのだが、秋子さんに逆らえるはずも無く俺は素直に従う事にした。
……。
「ねえねえ、祐一どうしたの?」
「あ、ああ……別に何でも無いから大丈夫だ」
どうやらちょっとのつもりが結構長い間考えていたらしい。名雪が俺の事を心配そうに覗き込んでいる。
「それならいいんだけど……早く行かないと学校遅刻しちゃうよ?」
「遅刻って……とっくに時間過ぎてるんじゃないのか?」
―――もしかしたら、遅刻どころかもう放課後の時間かもしれない。
「そんなこと無いよ、まだちょっとだけ余裕があるよ」
「じゃあ名雪……」
「何かな?」
「……本当に、学校に遅刻しない時間に一人で起きれたのか?」
「うん、そうだけど……なんで?」
「だってさ、名雪がこんなに早く起きられる訳が無いじゃないかよ」
それこそ、俺が女になるよりもあり得ないだろ……。
我ながらひどい事を言ってる気がするが、どう考えたっておかしい。
「うう〜、私だってたまには早起きするよ〜」
「じゃあ、今日は何で早く起きたんだ?」
「そ、それは……」
急に名雪は口ごもって、ごにょごにょと何を言っているのか良く聞き取れないような状態が続いた後に……
「ゆ、祐一のばか〜〜〜〜!」
―――と、何故か顔を真っ赤にしてけろぴーらしきもの―――何故か鈍く銀色に光っていた―――で俺の顔面をなぐ……ろうとして慌ててみぞおちに入れてきた。
『ドゴッ』っと尋常じゃない音を立てて見事にけろぴーが俺のボディーに飛び込んできた。
……フェイントとは、名雪もやる……。
薄れる意識で―――
「危ない……女の子の顔を傷つけちゃうところだったよ……」
とか言う声が聞こえたような気がした……。
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