―届く想い……届かぬ想い……第一節―
常磐悠
朝は眠いな……。
学校への道をのんびりと一人で歩いていく。まだ朝も早いので人通りも少ない。
俺がこの町に来てからもう3年……。
あれから、俺は無事に高校を卒業して近くの大学に入学した。その際に大学近くの安いアパートを借りて一人暮らしをしている。
まあ、気楽なのは良いけれど、時々昔のようなドタバタしていた生活が懐かしく思える。
『キャー、誰か助けてー』とか何処かから聞こえてくれば、学校なんてサボって助けていくのにな……。
やっぱりこの日常を崩してくれるような事件は落ちてないのか……?
そんな大した事を考えていると―――
「キャー、誰か助けて下さいー」
……?!
どこから聞こえた?
考えるよりも俺は走り出していた!!
いかにも……というような路地裏に、女性に黒服の男達が何人も周りを囲んでいた。
「……あっ、お願いします!助けて下さい!!」
こっちに気が付いた女性が、俺に精一杯の助けを求めてくる。
―――どうする?勢いだけで来たけど、俺に何が出来る?
相手は複数だぞ……。
「お嬢様、お願いですからこれ以上困らせないで下さい」
「嫌です!!」
……かと言って、このまま見ない振りなんて……畜生!!
「うぉおぉぉぉー!!!」
女性に一番近くで口論していた男にありったけの力で体当たりをかまして―――
「ほらっ!!逃げるぞ!」
「はっ、はい!」
呆然としている黒服の男たちの間をすり抜け俺達は逃げ出した……。
「はぁ……はぁ、も、もう、ここまでくればひとまず安心だろ……」
「どうもありがとうございます」
「ああ……何処か怪我とかは無いか?」
「はい、それは大丈夫ですよ」
「そうか……それは良かった」
どこをどう走ったかは分からないけど、何とか上手く撒く事が出来たみたいだ。高校時代に毎朝走ってたかいがあったな。別に毎朝走りたくて走っていた訳ではないけど……。
それにしても、随分と綺麗な人だよな……。年は俺より少し上ぐらいか?
「あの……えっと……」
「……どうした?」
「どうして……あの場所に?」
「ああ、たまたま君の声が聞こえたからちょっと気になってさ」
「そうですか……」
「なあ、これからどうするんだ?」
「そうですね……とりあえず、見つからないような場所を探そうと思ってます」
「一人で大丈夫なのか?もし良ければさ……」
「……」
擬音にすると『じー』という感じでこちらをなめ回すかのように見てくる。
「あの……もしかして、祐一さんですか?」
「あ、ああ、俺は確かに祐一だけど……?」
……えっと???誰だ……うーん、どこかであった?
「あの祐一さん、佐祐理ですよ……もしかして、忘れちゃいましたか?」
ちょっと寂しそうに俯く佐祐理さん。
「そ、そんな事無いです!!」
「ふぇ……そうなんですか?」
「はい、あまりにも綺麗になっていたのでちょっと分からなかったんですよ」
「あははー、祐一さんはお世辞が上手くなりましたねー」
「お世辞じゃなくて、本当に―――」
「でも、祐一さんも格好良くなりましたよー」
「……佐祐理さんこそお世辞上手いじゃないですか」
「お世辞なんかじゃないですよー」
「そうですか……?佐祐理さんにそう言われると嬉しいですよ」
まさか、こんな形で佐祐理さんと再会できるとは思ってもみなかった。佐祐理さんが卒業して以来……か、こうして会うのも……。
「それで、佐祐理さん……これからどうするんですか?」
「あの……祐一さん、お腹が空きませんか?」
「うーん、そう言えば空いてきたような……」
ふと時計を見ると、そろそろ午前から午後へと移り変わるような時間だった。……どうりで腹が減ってくるわけだな。
「それでは、佐祐理が何か作りますよー」
「本当ですか佐祐理さん?」
その提案はとても嬉しい。高校時代に何度か食べさせてもらったけど佐祐理さんの作るものは絶品だ。
「はいー、それではまずは材料の買い出しからですねー」
「……あの、佐祐理さん?」
佐祐理さんは俺の腕を自分の腕に絡ませて歩いていく……。
「祐一さん、ほら早く行きましょう」
「あ、ああ……」
佐祐理さんと二人でのんびりと歩いていく……これからの事への期待と不安を感じながら……。
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